【伝統を守ることは、新しい挑戦を捨てることなのか?】
二者択一に悩む老舗の4代目当主が、顧客の期待から「暖簾の核心」を見出すまで
- クライアント: 今出川 社長(40代後半)
- 会社概要: 京都で創業100年を超える老舗和菓子店(4代目当主)
- 当初の相談内容: 「伝統を守ることと時代に合わせることの板挟みになっている。若い職人から『SNS映え』などの提案が出るが、伝統を壊したくもない。何を一番に守り、何を捨てるべきか舵が切れない」
第一幕:二者択一の板挟みと、固まらない腹
(画面の向こうの今出川社長は上品な羽織をまとい、どこか重々しい表情で言葉を一つひとつ確かめるように話し始めた)
今出川社長:
「コーチ、実は今日、本店の奥の茶室で次の秋に向けた生菓子の試作と、職人たちの評価制度のことで頭を抱えていたところでしてね。
先代から受け継いだ『変えてはならない伝統の味と格式』、これだけは絶対に守らんとあかん。ですが、今の若い職人たちや、新しく入ってきたマーケティング担当の者たちは『もっとSNS映えする華やかな商品を出すべきだ』『時代に合わせて味付けを軽くするべきだ』と、新しいことばかりを提案してくるんですな。
古い暖簾を守ることと、新しい時代に合わせること。この二つの板挟みになって、どうにも私自身、どこへ舵を切るべきか腹が固まらへんのです。
私はこの100年の暖簾を預かる4代目として、一体何を一番に守り、何を捨てるべきなんでしょうか……?」
コーチ:
「歴史ある暖簾を守る責任と、未来に向けた挑戦の狭間で葛藤されているのですね。さて、何を守り、何を捨てるべきかとおっしゃいましたね。少し気になったのですが、何かを守るということは、必ず何かを切り捨てなければならないことなのでしょうか?」
第二幕:前提を覆す「守ると捨てる」の問い
(今出川社長は、その問いかけを白磁の器に注がれたお茶のように、じっと見つめるかのように沈黙した。部屋の静寂の中に深い呼吸の音だけが微かに響く。やがて、ゆっくりと顔を上げた)
今出川社長:
「……守ることは、捨てること……。
なるほど。私は無意識のうちに天秤にかけていたのかもしれませんな。
『伝統を守るためには、新しい流行を捨てねばならん』
『新しい時代に合わせるためには、古いやり方を捨てねばならん』
白か黒か、どちらかを切り捨てて進むことこそが、暖簾を預かる者の『決断』やと思い込んでおりました。
ですが振り返ってみますと、うちの100年の歴史の中で先代たちも決して『何かを捨てる』ことだけで暖簾を繋いできたわけではありませんでした。例えば、砂糖の流通が変わったときも当時の人々の味覚に合わせてほんのわずかに餡の塩梅を変えた。それは伝統を捨てたのではなく、伝統の『本質』を守るために表現を変えただけやった。
私が今モヤモヤしているのは、彼らの提案が気に入らんのではなく、『守るべき本質』を私自身が明確に語れていないからなのかもしれません」
第三幕:顧客の視点から見えた「暖簾の核心」
(二者択一の罠から抜け出せた今出川社長に対し、コーチはさらに「伝統の本質」を具体的に手繰り寄せる問いを重ねた)
コーチ:
「変えてはならない核心ですね。きっと核心は既にお持ちなのだと思います。ただ、言語化できていないだけではないでしょうか。代々お越しになる常連様、たまに訪れるお客様、そして新規のお客様……それぞれが今出川さんの店に何を期待されていると思われますか?」
今出川社長:
「期待、ですか……。代々うちを使ってくださる古い常連様は、うちの菓子に『変わらない安心』と『格調高い時間』を期待してはります。季節の節目にお越しになるお客様は『日常から少し離れた格別な季節感』を求めに来られる。そしてSNSなどを通して初めて来られるお客様は、100年続いてきた『本物の伝統が持つ、凛とした空気感』の体験を求めている。
……あ、今、繋がりました。
三者三様、求めているものは違うように見えて、根底にある期待はすべて同じです。皆、うちの店に『日常の雑音を消し、一瞬で心が整うような、圧倒的に美しい非日常』を求めておられる。それこそがうちの暖簾の存在理由であり、変えてはならん『核心』やったんですな。
レシピそのものが核心ではない。『心が整う非日常の体験』を提供することこそが核心であるなら……若い職人が言う『SNS映え』も、この核心を表現するための『現代の手法』として、私が美しい形に昇華させてやればええだけのこと。ただ流行りに乗るのとは、意味合いが全く変わってきますな!」
第四幕:情熱の翻訳と「継続する仕組み」へ
(経営者としての軸が完全に定まった今出川社長の表情には、老舗の当主らしい揺るぎない覚悟と熱量が戻っていた)
コーチ:
「『心が整う非日常の体験』、胸に響く素晴らしい言葉ですね。若い職人さんたちにその想いを届けるために、明日はどのような言葉で伝えられますか?」
今出川社長:
「『お前たちがやりたい新しい挑戦は大いにやってくれ。ただ、うちの菓子はただの消費されるおやつであってはならん。一口口にした瞬間に、お客様の心が整うような“圧倒的に美しい非日常”が宿っていなあかん。100年続くうちの技術は、その一瞬をつくるためにある。若い感性で、次の100年のお客様の心を整える新しい菓子を、俺と一緒に作ろうやないか』……そう伝えます」
コーチ:
「力強いお言葉ですね。ぜひその世界観を届けてください。そして、この想いを一回限りの情熱で終わらせず、組織に根付かせ継続して伝えるための『仕組み』も作っていけると良いですね」
今出川社長:
「継続して伝える、仕組み、ですか。なるほど。単なる熱弁で終わらせず、毎日の職人の所作や日々の仕組みそのものにその美学を染み込ませていく。知恵を絞って考えてまいります。目の前がパッと開けるような時間をありがとうございました!」
【コーチから経営者のあなたへ】
今出川社長のように、「伝統か革新か」「守るべきか捨てるべきか」という二者択一の板挟みで苦しむリーダーは少なくありません。
しかし、本当の決断とは何かを切り捨てることではなく、時代が変わっても変えてはならない「暖簾の核心」を見極め、現代の文脈に統合することです。
あなたと御社が、お客様に届けている本当の価値は何ですか?
二者択一の迷いを超え、次代へ繋ぐ「本質の軸」を、一緒に言語化してみませんか?